新しいEVALUATIONについて(チェアアンパイアの基本技術)

このページは、1994年2月26日、東京体育館で行なわれました『新しいEVALUATIONについて』と題する、審判員の仕事ぶりを評価する査定員(EVALUATOR:日本には、この制度はまだありません)のための講習会(講師:八幡博之さん(ITF/ATP公認審判員))の講義録をまとめたものです。本題は、チェアアンパイアを評価するEVALUATORのための講義ですが、ひっくりかえして見ればチェアアンパイアとして心掛けなければならない点がいくつも指摘されています。現在でも、参考になると思われますので、当時のメモに多少手を加えてお届けします。チェアアンパイア、特に国際審判員を目指す方の参考になれば幸いです。

「EVALUATION CARD」(国際テニス連盟(ITF)が毎年発行する審判員の手引書 Duty and Procedure for Officials)末尾に付いている)を参照しながら読んでいただくと理解しやすいと思います。各タイトルの英字で示したものがEVALUATION項目です。1999年からEVALUATION CARDのフォームが少し変わりました。新しい評価項目を本ページ末尾に示しました。ITFやATPのEVALUATORはこのカードを手にして観客席などから目立たないようにチェアアンパイアの仕事ぶりを評価し、仕事が終わったチェアアンパイアに、どこが問題だったのか具体的に指摘します。また、ITFやATPにも報告してチェアアンパイアの成績にします。

OBSERVATIONS
1,PREPARATIONS AND PRE-MATCH MEETING

On time , balls , court , banners , introduction , toss , dress , confidence

1)コートにシングルススティック、水、タオル、コップ、おがくずなどの備品が揃っていることを確認しているか、
2)バナー(スポンサーの垂れ幕や看板)が隠れたり、曲がったりしていることをチェックしているか、
3)ネットチェックはしたか、
4)最初のボールチェックは行なったか、
5)プレーヤーの名前の確認(発音も)はしているか、
6)選手が入場してからプレマッチミーティングまでにドレスコードをチェックしているか(リストバンドのロゴは見落としやすいので注意)、
7)コートサイドに持ち込んでいけないもの(大会スポンサー以外の名前が大きく入ったタオル等)もチェックしているか、
8)ラインアンパイアが決められた数だけ所定の位置についていることを確認しているか、
などがEVALUATORのチェックポイント。EVALUATORは、チェアアンパイアよりさらに何分か前に出かけて、チェアアンパイアのこれらの言動をチェックします。

チェアアンパイアへのアドバイス
これらのチェックが自然になされるようでないといけない。プレーヤーやコートサイドの役員から指摘されて行なうようでは、プレーヤーや観客から信頼を損ねることになる。したがって、チェアアンパイアは、選手が入場する5~10分前にはコートに出て事前に上記項目をチェックすることが必要。バナーの不備を見つけたときは、コート整備担当者かレフェリーに連絡して直してもらいます。
コートに水が不足している場合でもコートパトロールなどにリクエストしてあれば、プレーヤーから「水がないよ」と指摘を受けても、「ウォームアップ中に届きますから」と応えることができます。試合が始まってから気がつくようでは減点です。

また、いわゆる7つ道具のうち、ストップウォッチ、メジャー、バインダー、鉛筆が大会本部で用意されているのは日本だけ。チェアアンパイアたるもの、これらの道具は自前で準備すべき。

2,ON-COURT IMAGE AND PRESENCE
Appearance , confidence , concentration , uniform
1)主審台での姿勢はどうか、
2)顔が上がってコートの中に自然に目がいっているかどうか、
3)背後で起こっていること、隣のコートからのボールの侵入にも気配りをしているか、
4)ポイントルーザーの見方に片寄りはないか、
5)プレーヤーとの応答によどみがないか、
などがチェックの対象となります。また、スコアアナウンスの間違い、コールのタイミングの悪さ、ボールチェンジのタイミングを忘れるなどは、concentrationが切れていると判断します。アナウンスの声が小さかったり、ふるえたりしていないかなどもチェックします。

チェアアンパイアへのアドバイス
ポイントルーザーを注視することは重要ですが、ポイントルーザーを見ることばかりに熱中しないこと。問題がないようであれば、すぐに他方の選手に目を移したり、コートの周辺状況に目を配ること。
ちょっとした言葉のつまずきがあると、自分では緊張していないように思ってもEVALUATORやプレーヤーからは緊張しているように見えるものです。

3,ANNOUNCING AND PRESENTATIONS
Diction , voice , promptness , correct , introduction , scoring
1)アナウンスが正しくできるか、
2)スムーズに言えるか(自分のアクセントでよいからよどみなくスムーズに言えること)、
3)タイミングよく、しかも顔を上げてアナウンスしているか、
4)ダブルスのプレーヤーの名前は、ドローシートに書かれた順でスコアカードに書かれており、その順どおりにアナウンスされているか、
などがチェックポイント。チェアアンパイアへのアドバイス
試合前にトスの勝者、プレーヤーのintroduceが正しく行われているかどうかもチェックされます。introduceにおけるプレーヤーの名前は、フルネームでアナウンスし、ゲーム中は、ラストネームだけでよい。また、女性の場合には、MissとMrs.を区別しない。フレンチオープンなど一部のトーナメントでは、Missを使うこともありますが、一応、トーナメントディレクターかレフェリーに確認しておくとよいでしょう。

エースなどで拍手があるときは、拍手が終わるのを待ってスコアをアナウンスするなど、タイミングのよいアナウンスをすべきです。エースなどの時は、拍手の前にスコアをアナウンスするのが好ましい。また、拍手が長くなりそうなときは、終わるちょっと前に少し大きな声でスコアをアナウンスするのもよいでしょう。拍手が長いとき、まれには、”Quiet please, thank you”と言ったあとでスコアをアナウンスすることもあります。

エンドチェンジではないときにボールチェンジする必要があるときのアナウンス例
Game A,ball change,1 game all.

また、最近は、アナウンスに he,she,they を使わず、名前を言う傾向になっています。
Game,Yamamoto,Yamamoto leads 4-2.

4,KNOWLEDGE OF RULES/REGULATIONS
Rules of Tennis , Tournament regulations , local conditions
テニスルールや各大会後ごとの競技規則を熟知していなければ話になりません。ルールの基本的な間違いを犯した後では、どんないいmatch controlをしても失点です。「ルールの基本的な間違い」を犯したら必ず1ランク下げられます。インジュリータイムアウト(現在ではメディカルタイムアウト)は、いつから始まるのかなど基本的なことをプレーヤーから尋ねられても即座に答えられなければなりません。その際、不安になっておどおどしたりしないこと。その態度でプレーヤーは、熟練したチェアアンパイアであるかどうかを見抜いてしまいます。
5,LINE DECISIONS, OVERRULES, BMI'S
Accuracy , promptness , firmness , ball mark inspection(BMI)
オーバールールがスムーズにできるか(ボールがバウンドした瞬間にコールしてポイントルーザーをすぐ見ているか)、オーバールールは、100%事実に基づいて言うとき以外はしないこと。”おそらく入っていたと思う”など、憶測でオーバールールはしない。また、選手からのアピールによってオーバールールしたように見えることも減点の対象となります。クレーコートでのBMI(ボール・マーク・インスペクション)が正しく行なわれるかどうか。正しいBMIは、ボールマークを見ながら審判台を降り、指をさして”Out”か”Good”をすぐコール(ハンドシグナルも)して審判台に戻る。必ず1回で済ませること。プレーヤーからのクレームで何度も審判台を降りない。
6,APPLICATION OF CODE OF CONDUCT
Conduct problems , proper use of PPS , time violations
どの程度の言動ならCODE VIOLATIONをとるかについて、しっかりした考えを持っていること。1回目であればCODE VIOLATIONを取らずにエンドチェンジ時にsoft warningするのもよいでしょう。ラケットを投げる行為が直ちにCODE VIOLATIONの対象になるわけではないが、それがラインアンパイアやボールパーソンなどにぶつかったときは(触れただけでも)、CODE VIOLATIONとして処置してよいでしょう。
"Code Violation, Abuse of Racket. Warning. Mr.A"プレーヤーとしては同じ行為をしたのに、先ほどはCODE VIOLATIONにならず、なぜ今回の行為がCODE VIOLATIONになったかについて、理由の説明が必要な場合もあります。なぜCODE VIOLATIONを取られたかについて選手にきっちりと説明できなくてはなりません。また、同じ行為の繰り返しで(回数で)CODE VIOLATIONを取ったのではなく、先ほどとは質が違うことも説明します。
ラケットを投げたことによってフレームにひびが入り、ラケットを換えざるを得なくなったときは、直ちにCODE VIOLATIONを取ってよいでしょう。このときは、ラケットの破損によって交換した事実をチェアアンパイア自身で確認する必要があります。「おそらくラケットを投げたことによって破損し、交換したのだろう」、などという憶測で判断してはいけない。その事実を確認すること。

”チェアアンパイアは、100%確かなこと以外で判断しないこと”

TIME VIOLATIONを取るとき、まず、ストップウォッチを正しく使っているかどうかが問題となります。EVALUATORは、チェアアンパイアがどういうタイミングでストップウォッチを押しているかをチェックします。押すタイミングがずれていないか(コール後に押してはいないか(out of playと同時に押す)など)、また、チェアアンパイアとEVALUATORのtimeがずれるときには、その原因は何かを把握しておき、最後にチェアアンパイアに対し、評価結果についてどこが違うかを説明します。

チェアアンパイアは、20秒違反が頻繁であるときには、ゲームの最初のほうのエンドチェンジでsoft warningを行なうとよいでしょう。最初から同じような調子で20秒違反しているのにゲームが過熱してきた段階ではwarningしにくくなります。

逆に、TIME VIOLATIONを取るべきところで取らないと、プレーヤーはチェアアンパイアがtime管理しているかどうか不信感を与えることになります。プレーヤーがナーバスになってきたときには、そのプレーヤーからチェアアンパイアに対し、timeをしっかり見るようにアピールがあることもあります(明らかに相手プレーヤーが20秒、90秒ルールを犯しているのにチェアアンパイアがTIME VIOLATIONをとらないときなど)。

7,CONTROL OF MATCH AND PLAYERS
Firm and fair decisions , being in charge
マッチコントロールは、プレーヤーや他のオフィシャルに信頼されるかどうかによっても決まります。したがって、それはプレマッチミーティングから始まります。プレマッチミーティングでチェアアンパイアがプレーヤーをチェックする際にプレーヤーは経験あるチェアアンパイアかどうかを見ているのです。行動やアナウンスに自信を持っているかどうかがマッチコントロールを左右すると言ってもよいでしょう。
プレマッチミーティングでコイントスを失敗したからといって慌てることはありません。ミスした瞬間に”sorry once more”などと言って、やり直せばよい。ミスしたからといっておどおどしたようにふるまわないこと。
8,COMMUNICATION WITH PLAYER'S,OFFICIALS,CROWD
Explanations , verbal/visual communication , instructions

プレーヤーとのコミュニケーションにはハンドシグナルが有効です。指先に力を入れて、しかもsureなときだけ、ルーザーを見ながら"out"、または"good"のハンドシグナルをします(プレーヤーがクレームをつけそうなときは毅然とした態度で)。ラリー中のハンドシグナルはいりません。また、スコアカードをつけながらのハンドシグナルはいけない。ハンドシグナルをしなくて済むようであればしない。出すときは、はっきり出すこと。チェアアンパイアはラインアンパイアの動きもよく見ること。ラインアンパイアがトラッキングしてボールを判断したときには信頼できないのでチェアアンパイア自身もしっかりラインを見ること。ラインアンパイアはチェアアンパイアに不安を与えないようなジャッジ(コールとハンドシグナル)をすること。

Medical Time-outでトレーナーが診察を始めたときには、”The Trainer is evaluating.”。そして、残り時間を、”2 minutes remaining”、”1 minute remaining”とアナウンスします。Medical Time-outやToilet Break等のアナウンスは必要最少限にとどめます。Toilet Breakのときは、アナウンスしないのが普通。

9,CHAIR UMPIRE TECHNIQUES
Tracking serve , checking receiver , watching point loser
ラインアンパイアと異なりトラッキングしてボールを追うことになります。アウトボールのハンドシグナルとポイントルーザーを見る方向は逆になるので慣れが必要。スコアを忘れたときには、スコアカードをチラッと見る程度で、ポイントルーザーを見ながらコールします。スコアカードに長く目を落とさないこと。2nd serviceの直前にストップをかけて、letとし、1st serviceをサーバーに与えるかどうかは、サーバーがすでに2nd serviceのモーションに入ったかどうかが基準になります。サーバーがモーションに入り、ボールが侵入してきたので”stop please”として止めたとき、あるいは、ボールパーソンのミスなど、その他タイミングを乱す理由があるときです。
2nd serviceの直前に、レシーバーがクレーム等でチェアアンパイアに近づいてきても、ハンドシグナルとアイコンタクトで制止してプレーを続けるようにさせます。レシーバーのその行為がletとなってサーバーに1st serviceを与える結果になるからです。
10,LOGICAL HANDLING,UNUSUAL SITUATIONS
Application of rules , calm manner , inform players/crowds
予期せぬできごとが起きたときの事態のおさめ方。decisionの仕方がスムーズかつ適切であるかどうか。隣のコートからボールが混じってしまったときの対処などについてチェックします。
11,AWARENESS ON AND AROUND COURT
Outside interference , scoreboard , other distractions
コート上および周辺のことに注意がいっているかどうかのチェック。ラインアンパイアのポジションが間違っているのに(特に、ムービングのあるとき)気がつかなかったり、ラインアンパイアがアイコンタクトしているのに、それに気がつかなかったりしているようでは失格です。また、観客がざわついているのをプレーヤーから指摘されてコントロールするなどもまずい。選手の視線にも注意してcrowd controlに利用します。
12,SCORECARD AND POINT PENALTY CARD
Properly completed , neat orderly manner
試合が終了したら、直ちに審判台を降ります。スコアカード、ポイント・ペナルティーカードを審判台の上で書いていないか。スコアカードの空白部のfill outは、エンドチェンジの90秒間でも可能。デスクに戻ってきて書き込むのはフロントページの結果ぐらいにしておきます。1st setのエンドタイム、2nd setのスタートタイムは書き忘れやすい。記入漏れがないかどうかチェックの対象。
13,CONFORMANCE WITH CODE OF OFFICIALS
Conducts him/herself in an appropriate manner
チェアアンパイアとして守るべきcode(Code for Officials)を熟知し、それを守っているか(ATP codeは15項目)。チェアアンパイアは、自分が担当した試合に関するコメントを流さないなど、チェアアンパイアがprofessional mannerをしているかどうかもチェックする。
14,KNOWLEDGE OF ENGLISH FOR TENNIS
Spoken , understood , written(PPS card) English

間違った言い回しをしないように、日頃から慣れておきます。また、「Rules of Tennis」はもちろん、「Duties and Procedures for Officials」など、各種の審判関係資料にも親しんでおくことも大切です。海外では、「英語が苦手」などと言ってられません。最後に、EVALUATORは、Evaluation Cardを前にしてチェアアンパイアや他のofficial'sとよく話し、また、彼らの言い分もよく聞くこと。決して一方的に評価するものではありません。また、評価する時には個人的感情を入れないこと。アラ探しではなく、本人には気がつきにくい欠点や改良すべき点を補充して育成するためにevaluateすることが目的なのです。


 

1999年のCHAIR UMPIRE EVALUATION CARD
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CHAIR UMPIRE EVALUATION
OBSERVATIONS
・Pre-match
・Techniques
・Image and Presence
・Announcements
・Rules Knowledge
・Line Decisions
・Overrules
・Ball Mark Inspections
・Code of Conduct
・Match Control
・Communication
・Awareness
・Handling Difficult/Unusual Situations
・Scorecard and Point Penalty Records
・Code for Officials
・Level of English
GENERAL COMMENTS
 

 


RATING & COMMUNICATION
Rating:5 = Excellent, 4 = Above Average, 3 = Average, 2 = Below Average, 1 = Unsatisfactory


 

 

CHAIR UMPIRE EVALUATORS' WORKSHEET

 

・PRE-MATCH
・Equipment Checks
・Dress Code Check
・Pre-Meeting
・Match Introduction
 
TECHNIQUES-make comments and mark each error
・Point loser
・Server after fault
・Receiver 1st serve
・Receiver 2nd serve
・Clay Court/BMI's
・Tracking serve
・Timing -90 seconds
・Timing between pts
・Voice
・Line Calls/Overrules
 
IMAGE AND PRESENCE
・Appearance
・Presence
・Position in chair
 
COMMUNICATION
・Players-verbal
・Players-visual
・Line Umpires
・Ball Kids
・Crowd
 
INCIDENTS IN MATCH
Score/Situation/Decision<>

 

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ITFのEVALUATION CARDを基に審友会で、1996年にチェアアンパイア用のEVALUATION CARDラインアンパイア用のEVALUATION CARDを作成しました。初心者の評価用に、また、友達同士の評価用に、そして自分のチェックリストとしてご自由にお使いください。近いうちにITFの1999年改訂版に合わせて審友会バージョンも改訂の予定です。
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